第14章 ショコラscene1
どこもみないわけにもいかなくて、浴室の壁をみてた。
「翔ちゃん…」
「んー?」
「俺、なんか憑いてるの?」
「大阪の落ち武者だろ?」
「でも…あれ、女の人だったよ?」
「え?マジで?」
とぼけも通用しているかわからない。
なにせ、俺が動揺してるのだから。
「先生、何か言ってなかった?俺が寝てる間」
「んー…何も言ってなかったかな」
「ホント…?」
そういうと、雅紀はこちらを背中越しに見てきた。
濡れた髪の間から、こちらを見る潤んだ瞳。
何かが俺の奥で動いた。
でもそれは、動いてはいけないものだとわかった。
だからあえて何か探ろうとしなかった。
「本当だよ。嘘ついてるように見える?」
「そっか…翔ちゃんは俺に嘘つかないもんね…」
少し悲しそうに笑う。
また何かが俺の中で動いて、頭がおかしくなりそうで。
だってコイツは男で。
今、本物さんがいるから色っぽく見えるだけで…
決して雅紀に、劣情を抱いてなんかいない…はず…
「俺を…信用しろよ、雅紀…」
それだけ言って湯船に潜った。
「信用してるよ…?翔ちゃん」
いつもより湿った声が浴室に響いてた。