第14章 ショコラscene1
独特の訛りと、”ぬしさん”という言葉でわかった。
これはいわゆる江戸時代の遊郭の、廓言葉で。
雅紀に憑いてる本物さんは、新町遊廓の遊女だった人だろう。
どういう経緯なのか、先生に聞いてこなかったのを悔やんだ。
「雅紀?雅紀?」
呼びかけてみるが、一向に俺に抱きつく力は変わらない。
むしろどんどん強くなってく。
ヤバイ。
背筋を冷たいものが流れた。
このまま抱き殺される。
そう思った瞬間、ふっと力が抜けて雅紀が崩れ落ちた。
「おい~…」
一気に力が抜けて、俺も床にへたり込んだ。
先生の言ってる厄介ってこれか…
恋人探しているんだ、本物さん。
「そればっかりは、無理ですよ…」
俺は雅紀の中にいる本物さんに言ってみた。
もちろん返事はなかった。
雅紀は暫くすると目を覚まして、元気に酒を飲んだ。
あまり飲ませすぎるなと先生に言われていたので、程良い所できりあげた。
風呂の準備をして、リビングに戻ると、雅紀が床に座り込んでカバンの中の物を取ろうとしてた。
その後姿にドキッとした。
座り方が女性だった。
足を折り曲げて横に投げ出して、床に片手を付いていた。
よく美人画でモデルがとっているようなポーズで。
改めてヤバイと思った。