第14章 ショコラscene1
「雅紀、どうした?疲れてるの?」
「ん?ううん。大丈夫だよ?」
ハンドルを持ちながら、空いた手で雅紀の額に手をやる。
「んー…熱はなさそうだけど」
「ほんと、大丈夫だよ?」
そうは言っても、表情には覇気がない。
本物さんのせいだろうか。
雅紀が触られたという顔のあたりを眺めてみたら、もう変な色はなくなってたけど…
先生のお宅は、普通の日本家屋で。
看板も何も出ていない。
だけど、先生は一年中忙しい。
今回は特別に捩じ込んでもらった。
副社長の知り合いで、昔からうちの事務所がお世話になっているご縁で。
なんとかスケジュールの合間を空けてもらった。
チャイムを押すと、奥様が対応に出てこられて、客間に通される。
待っているとすぐ先生が入ってこられる。
「やあ、忙しくてこんな格好ですいません」
そういって、初老の先生はソファに腰掛けた。
先生はいわゆる波平さんがうちにいる時のスタイルだった。
今どきこんな格好でくつろぐ人も珍しい。
「すいません、ご無理言って」
俺が頭を下げると、雅紀も慌てて頭を下げる。
「ははぁ…大阪で拾ってきましたな」
「わかります!?」
雅紀が飛び上がった。
「うーん…」
ちょっと先生は難しい顔をした。
「え…なんですか…?」
雅紀が怯えだす。