第13章 マロンscene1
その晩はなかなか寝付けなかった。
静かすぎるのもあるだろうけど、和也の寝息が気になって仕方なかった。
いつも聞いている寝息なのに。
うとうとしかけた頃、和也が起きだす気配がした。
トイレかな、と思って声を掛けずにいた。
和也は起きだすと、机で立ち止まって、それから窓辺の椅子へ腰掛けた。
しばらく動かない。
そっと目を開けて伺うと、キーリングを嬉しそうに見つめていた。
なんだか見てはいけないものをみたようで、声がかけられなかった。
翌日はよく寝てなかったけど、東京まで頑張って運転した。
家に着くなり、俺はベッドに倒れ込んだ。
和也が心配したけど、昨日眠れなかったとは言えなかった。
「ちょっと疲れただけだから」
そう言って暫く眠ることにした。
どれだけ眠ったろう。
目を覚ましてみると、濡れタオルが額にあった。
和也がベッド際で突っ伏して寝ていた。
時間は深夜0時になっていた。
和也の肩を揺らして起こす。
「和也?」
「あ、潤。どう?」
「うん…大丈夫」
「ちょっと熱あったんだよ?潤」
「え?マジで?」
「うん、寝たあと、唸ってたから測ったら、7度ほどあった」
「そっか…だからしんどかったんだ」
「もう、無理しすぎなんだよ。潤は」
そういって、寂しそうに和也は微笑んだ。