第13章 マロンscene1
酒を飲んでいたから、トイレが近くて。
戻ってきたら和也は布団の上で、掛け布団も掛けずに寝ていた。
仕方ないなと身体を起こすと、和也の手にキーリングが引っ掛かっていた。
左手の薬指に。
かーっと顔が赤くなるのがわかった。
和也は、もしかして。
もしかして。
そっとぶかぶかのリングを外して、机の上に置いた。
花びらの横に。
和也の身体を布団に横たえて、そっと掛け布団を掛ける。
俺は窓辺のイスに座って、顔のほてりを冷ました。
心臓がどきどきして止らない。
川のせせらぎを聞いて、心を鎮める。
俺は、もしかして。
もしかして。
でも、こんなこと言えない。
言ったら、この関係が終わってしまう気がした。
和也がいなくなってしまうような気がした。
それなのに、東京に帰ったら早速ブルガリのショップへ行こうと思ってる自分がいて。
浮ついていた。
窓の向こうは漆黒の闇なのに、俺はここが天国に見えた。
このまま和也とここで…
なんて考えて赤面した。
これじゃあ、恋人を思ってるのと一緒だ。
男相手に。
しかも相手は和也だ。
大事な友達なんだから。