第13章 マロンscene1
運転で疲れていたから、ちょっと横になるか、温泉にはいりたかったけど。
暫く二人で山を眺める。
あれは何の木だ、とかあの鳥はなんの鳥だとか。
普段、こんな風景をみないからいくらでも話せた。
暫く話したあと、黙りこむ。
窓から見える山の裾には、小川が流れていて、そのせせらぎが聞こえてくる。
すこし右手に目をやると葦簀がみえるから、あちらが温泉だろうか。
さらさらと山から風が吹いてくる。
和也の髪が風に揺れる。
その前髪になにか花びらがついた。
和也はそれに気づかず、俺をみて微笑んだ。
とても綺麗で。
今すぐ抱きしめないと、消えてしまいそうで。
途中まで手が出た。
和也が不思議そうな顔をしたので、髪についた花を取ってやった。
「ああ、なんの花だろうね」
「さあ、なんだろ」
「ありがとう。潤くん」
そういうと、ふわっと笑った。
いつまでもその花びらを和也は持っていた。
温泉に入って、二人で背中の流し合いをして。
あがったら東京で買ってきて、宿の人に冷やしておいてもらったビールを飲んで。
ほとんど部屋でゴロゴロしてた。