第13章 マロンscene1
和也の様子がおかしい。
リーダーと美術館に行くと言って出かけた日から。
俺と一緒にいても、上の空で。
5人揃う仕事の時なんか、リーダーを見て溜息をついている。
なんか、沈み込んでいる。
和也は俺には何も言わない。
一度、聞いてみたんだけど、そのうちわかる、とかわされた。
そのうちっていつだよ。
「ただいまー…」
リビングのソファで、今日発売になったばかりの文庫を熱中して読んでいたら、和也が帰ってきた。
あんまり夢中になっていたから、リビングに入ってくるまで気付かなかった。
「あ、おかえり。早かったね」
「うん…雨で…撮りが延期になったから…」
気付かなかった。
立ち上がってカーテンを開けると、確かに霧雨が街を覆っていた。
「うわ。本降りにならないといいな」
「うん…」
また上の空。
振り返ると、ソファの俺の座ってたところにちょこんと座っている。
俺を見上げて、ソファの座面を左手で二回叩く。
帰ってきたばかりだから、素直に従ってやる。
そこに腰掛けると、膝の上に乗ってくる。
俺の首に手を回して、抱きつく。
「潤……好き」
俺は、髪の毛を撫でてやる。
それに答えてはやらない変わりに。