第2章 ワインレッドscene1
今日の取材は、スポーツ選手だった。
アスリートにインタビューすることが多いので、粗方調べてある資料にざっと目を通して、その方のやっているスポーツの歴史なんかを調べたりして下準備する。
今日も紙ベースの資料と、タブレットで両手は塞がれていた。
現場につくと、なにやらざわついている雰囲気。
「どうした?」
現場に居た番組スタッフに尋ねる。
「あっ!櫻井さんおはようございます!」
いつも取材に同行してくれるスタッフの顔色が青い。
「なに、どうしたの?」
「実は…」
こそこそと教えてくれたのは、今日取材するはずだったアスリートが、たった今、大怪我をして救急車で運ばれていったということだった。
「マジで…。怪我の具合は?」
「いやあ、僕じゃちょっと…でもあの痛がり方普通じゃなかったし、結構酷いんじゃないかと…」
「そっか…」
言葉を無くしてしまった。
結局、この日の取材は完全中止になってしまった。
ただただ、選手の無事を祈りつつ帰路についた。
調べた資料はオクラになってしまったし、今日はほとんど一日オフになってしまった。
車窓に広がる梅雨の景色に溜息が出る。
不意にスマホの呼び出し音が鳴る。
松潤からの着信だ。
「もしもしー」
『あ、翔くん。あれ?取材じゃなかったの?』
「ああ、中止になってさ」
『え?そうなの?』
「相手の方、大怪我しちゃったみたいでさ。取材できなくなったんだよ」
『ああ、そりゃお気の毒だったね…』
「おー。選手生命云々までいかなきゃいいんだけどな」
『だね。翔くん、一回関わるとその人のこと友達みたいに心配するからさ。あんまヘコまないでね』
語尾がちょっと笑いで震えてる。
「オイ。あんま馬鹿にするんじゃねーぞ?」
こっちも笑いながら答えてやる。
「んで?どうした?なんか用?」
『あ、うん。ブラストの演出のこと』
言うや、すっかりと舞台演出家になってしまう松潤。
こいつが一手に演出関係は引き受けてくれてるお陰で、俺らはただ出演することに力を注げてる。
その代わり、松潤にとって俺は「嵐の中での相談役」となっているようで。
アイディアに詰まると、俺のところに電話がかかってくるようになっているのだ。