第1章 きみどり scene1
5人での収録が終わり、俺はこっそりとかばんに忍ばせてたカプセルを取り出す。
これをコーヒーに溶かして飲んで、マネージャーに送って貰えば、自宅につく頃には眠気が襲ってくる。
眠気を誘うハーブなんだが、なんで逆の作用のあるコーヒーに溶かすかというと、激マズだからだ。
だから好物の(というより水の代わりにしてる)コーヒーに溶かして飲むのだ。
カプセルごと飲めばいいんだろうが、俺はとても苦手。水分が全部持っていかれるようで飲めないのだ。
自販機でコーヒーを買ってきて、熱々のその中にカプセルを一つ、落としこむ。
しゅわっと音を立ててカプセルは消えた。
楽屋に戻ってゆっくりと味わうことにしよう。
そう思って楽屋の扉を開けると、まだ残ってるのがいた。
「あーかずー。まだ居たんだー」
でたよ…大野さん…
こんな気分の時に、一番ふたりきりになりたくない人。
「あら居たの。まだ帰らないの?」
「うん。なんか便所行ってたら、こっちのマネージャーの車乗りそこねたから、そっちの車乗ってくわー」
いつものほのぼのとした笑顔。
メンバーの家は、今はあまり離れていないので送迎に関しては今はゆるい。車は二台あって、帰るときはどっちに乗って行ってもOKになっている。
だがこんなときに、と少しマネージャーを恨めしく思う。最近は、俺の家がちょっとだけ離れているから、俺だけの送迎が多かったのだ。
できればこんなハーブ使ってること、メンバーには知られたくない。こんなことで追い詰められてるって知られたくない。
心配、かけたくない。
だからいつも最後まで残ってるのに。
「……かず。またコーヒー?」
「え?ああ、うん。そうですよ?なんか文句でも?」
いきなりコーヒーのことを言われて動揺する。手に持っているこれは、俺の弱みそのものだから。
「ねえ、飲み過ぎじゃない?」
「え?そんなことないよ?撮りが終わってから、これが初めてよ?」
「そうじゃなくって。その前ずーっとコーヒーばっかだったじゃん」
「しかたないでしょ?本番中にお酒飲むわけにもいかないんだし」
「あたりまえじゃん。何いってんの?」
極論を言ってしまった俺に、呆れ気味に大野さんが言う。
気まずい沈黙が訪れた。