第10章 ラズベリーscene1
それから、いつもと変わらない雰囲気で食事して。
いつもとかわらなく、一緒にテレビみて。
いつ、翔ちゃんのいう「後で」になるのかわからなかった。
タイミングが掴めない。
お風呂に入って、パジャマに着替えて、寝る前になっても、一向にいつもと同じだった。
「うーん…」
リビングのソファで、あぐらをかいて悩んでみるが、俺にはいいアイディアはなかった。
「智くん、もう寝れるの?」
「あ、うん」
「もう寝るけどどうする?」
「うん。行くよ」
これもいつもの会話。
一緒に寝室へと行く。
寝室のドアを翔ちゃんが開けてくれて、一緒に入る。
いつもの通り、端っこと端っこ。
でも。
いつもと違うのは、翔ちゃんが電気を消しても、「おやすみ」って言わないことで。
俺は自分のにぶさに、自分の頬を殴りたい気分になった。
翔ちゃんは、恥ずかしくて言い出せないんだ。
なんでそんなこともわからないんだ、俺。
「翔ちゃん…?」
「うん…」
「こっち、おいで?」
そういうと、翔ちゃんはもそもそと動いて俺の方にきた。
右手を出すと、その上に頭を載せて身体を寄せてきた。
俺は、翔ちゃんを抱きしめた。
抱きしめると、ふうっと息を吐いた。
やっと、翔ちゃんをこの手の中に収める事ができた。
しばらく、翔ちゃんのぬくもりを楽しむ。