第10章 ラズベリーscene1
そのまま、いつまでも二人で抱きあっていた。
離れてしまうのが惜しくて、ずっと離せなかった。
ずっと翔ちゃんの体温を感じていた。
「智くん…?」
「んー?」
「ごはん、食べよっか」
「…うん」
翔ちゃんがそういうから、しぶしぶ手を離す。
「後で、また…」
翔ちゃんはそう言い残してキッチンに消えていった。
後ろ姿の耳が真っ赤だった。
俺は小躍りしたい気分を押さえて、リビングのソファーに座った。
そのまま、安心して眠ってしまった。
「智くん…?智くん…」
翔ちゃんの声が遠くに聞こえる。
でも気持ちいいから、まだ寝ていたい。
「智くん、ごはん温まったよ?」
あ、そうだった。
これからごはんだった。
でも…
そう思っていたら、唇に何か当たった。
翔ちゃんの唇だった。
驚いて目を開けた。
「あ、起きた?」
「あ、うん…」
「ごはんだよ」
そういってダイニングテーブルに翔ちゃんは歩いて行った。
俺は暫く唇を押さえていた。
幸せを噛み締めて。