第10章 ラズベリーscene1
「これを最初は買ったんだよ。翔ちゃんに」
「え?そうなの?」
「うん。でもあっちのほうがおもしろかったから…」
「確かに」
「もしよかったら、それも翔ちゃんにプレゼントするよ?」
「え?いいの?」
「うん。開けてみて?」
翔ちゃんは嬉しそうに、小袋を開けた。
それはロゼッタ・ストーンのレプリカだった。
一番有名なやつで、教科書にのっているやつだったから、翔ちゃんがよろこぶかと思って買ったのだった。
「あ、これロゼッタ・ストーン」
「そう。大英博物館だからさ。一番有名なのにしたの」
「わーすげー。結構、細かいね」
「うん。なんか本物の石なんだって、それ」
「マジで!?凝ってるなぁ」
翔ちゃんは、少年みたいな顔でそれを見ている。
また俺は、幸せな気持ちになる。
俺は翔ちゃんを幸せにできる。
もっと幸せにしたい。
そう強く思った。
「ありがとうね、智くん」
「ううん」
「でも…これって、何が書いてあるんだろうね」
「ん?」
「全然読めないよね」
ちょっと笑いながら翔ちゃんが言う。
「俺、わかるよ」