第10章 ラズベリーscene1
あの動物園の日から、何度も行動を起こそうとは思ってはいた。
でも翔ちゃんと俺は、あまりにも普段通りすぎて、きっかけを掴めずにいた。
あれから翔ちゃんは、ペンダントをずっとつけてくれてる以外、なにも変わらなくて。
一緒にテレビを見ている時、俺の隣に座ってぴったりとくっついてくるようにはなったけど。
それ以外は普段通りだった。
ベッドも端っこと端っこ。
手も繋がないし、キスをするわけでもない。
「ただいまー」
「あ、翔ちゃんおかえり」
「あれ?智くんのほうが早かったんだね」
「うん。俺、なんもなかったから」
「そっか、これ、買ってきたから温めるね」
俺も翔ちゃんも料理ができないから、お惣菜を買ってきて温めなおして食べるのが習慣になってる。
「いつもありがとう」
「今日はデパ地下行ってきたよ」
「マジで!?」
「智くんの好きなカキフライ買ってきたよ」
「ありがとう!」
本気で嬉しい。
「ふふ…待っててね」
そういってキッチンに行こうとする。
「あれ」
ダイニングテーブルに目を向けて、翔ちゃんが足を止めた。
「ねえ、智くんこれって…」
翔ちゃんが指さしたのは、小さな袋で。
それはコショウ入れの入っていた紙袋と同じだった。
「あの、母さんのコショウ入れ入ってた袋だよね?」
「ああ、うん」
カバンを整理してたら、だしっぱにしてしまった。