第10章 ラズベリーscene1
「いっつも、翔ちゃんに俺のこと見ててもらってるのに、俺、翔ちゃんに何一つできないから」
「なにいってんの」
「俺、翔ちゃんの役に立ちたいんだ」
「立ってるよ!」
「え?」
「智くんといるだけで、俺…」
そういうと、また翔ちゃんは黙りこんでしまった。
「翔ちゃん…?」
「…俺、幸せなんだよ?」
そういうと、キーホルダーを愛おしそうに撫でた。
「一緒にいるだけでいいんだよ?」
翔ちゃんは、キーホルダーのシルバー部分を外してペンダントにつけかえた。
それを自分の首につける。
「これ、ずっとつけてるね」
はにかんだ笑顔を俺に向けた。
眩しい笑顔だった。
「俺も、Tシャツ…」
「ずっと着てたらだめだからね?」
「ハイ…」
「やっぱり、それ似合うね」
「ありがとう…」
俺は翔ちゃんの肩を抱きながら、とてもとても幸せで。
ずっとこうしていたくて。
暫く、そのままふたりでずっと話しをしていた。
なんでもない話を。
家族連れがくる声が聞こえたので、肩を抱いていた手を外した。
そのまま二人で立ち上がって、また肩が触れるくらいの距離で歩き始めた。