第10章 ラズベリーscene1
翔ちゃんは、小袋の中身を出すと暫く固まった。
狙い通りの反応で、俺は満足する。
「…これ、何?智くん…」
「ん?これね。ホクスンの銀製胡椒入れってやつのレプリカなの」
名前は昨日、必死で覚えた。
「この顔、誰かに似てない?」
「うちの母さん!」
「そう!」
そういうと、翔ちゃんは腹を抱えて笑った。
それは、どこに胡椒いれんのかわからない、銀製の人型のもので。
目がぎょろっとした、ギリシャ時代の女性っぽい人の形をしている。
「さ、さとっしくんっ…」
パっと見た時、翔ちゃんのお母さんにしか見えなくて。
家に帰っても、コショウ入れの顔がちらついて。
気になって気になって。
もう、これは翔ちゃんにあげるしかないって思って。
もう一回行って、手に入れてきた。
「ぶふぁ…だめだ。母さんにしか…見えない…っ」
顔の前にレプリカを持って行って、しげしげと見ては笑っている。
「だめだ、このポーズも教壇でチョーク持ってる時の姿みたい…」
涙を流して笑う姿を、俺はとっても幸せな気持ちで眺めていた。
翔ちゃんが笑っていることが幸せだ。
「はぁ~…だめだ…腹筋痛い…」
そう言って、翔ちゃんは水を飲んだ。
「今度実家行ったら、家族にみせるよ」
ちょっと落ち着いたらそう言ってくれた。
「うん。でも俺、おかあさんに怒られない?」
「大丈夫、その辺のエスプリはわかってくれるはずだから」
そういうと、目尻にたまった涙を拭った。