第10章 ラズベリーscene1
周囲に人が少ないベンチがぽっかり一個あったので、そこに翔ちゃんを座らせた。
「翔ちゃん?何か飲み物いる?」
しゃがんで翔ちゃんの目線に合わせて訊く。
翔ちゃんは無言でリュックから水を出した。
「あ、用意してたんだ」
すると、無言でもう一本見せる。
「これ、俺の分?」
無言で頷く。
「…ありがとう、翔ちゃん」
また無言で頷く。
もう顔を手で覆ってないから、はっきりと泣き顔が見える。
翔ちゃんは顔を逸らして、俺を見ようとしない。
俺はそっと、膝に置かれた手を取った。
「翔ちゃん、俺とデートしてくれますか?」
目を大きく開いて、翔ちゃんが俺を見る。
そしたらまた泣き顔になって。
「うん。嬉しい」
そう言って、泣きだした。
いくらにぶくてもわかった。
翔ちゃんは俺とのデートをいやがってない。
嬉しく思ってくれる。
とんでもなく嬉しい事みたいだ。
それはつまり翔ちゃんは…
俺はリュックからタオルハンカチを取り出した。
そっと翔ちゃんの頬に当てる。
「智くん…」
そういうと、そのタオルハンカチを受け取って涙を拭く。
「ありがとう、智くん」
涙混じりの声で翔くんが言う。