第10章 ラズベリーscene1
なるべく目立たないように地下鉄に乗る。
今日はお忍びを極めるために、翔ちゃんの車じゃなくて、あえて電車を使う。
電車に乗るのは俺は久しぶりだけど、翔ちゃんはけっこう頻繁に乗る。
飲み会とか、誰かの気の張らないパーティーとか、お酒飲むときは行きだけ電車で行ったりする。
タクシー使えばいいのにって、一回言ったことがあるんだけど、電車に乗ると社会が見えるんだって。
「地下鉄ってさ。なんか凄いよね」
車窓は真っ暗でなにも見えないのに、窓を見ながら翔ちゃんは言う。
平日なのに、車内はわりあい混んでいて、俺達は隅っこで小さくなっていた。
「すごいよね。地下鉄」
「智くんもそう思う?」
「なんかさ、このまま横の壁が、がーっと開いて、地下の帝国つれてかれそうだよね」
「ぶふっ…」
「えっ!?なんか変なこと言った?」
「いや…ぶふぉっ…」
「もー言ってよ?変だった?」
「いや、発想が少年だよね、智くん」
「そう?子供みたいかな?」
「ちがう、子供じゃなくて少年ね」
そういうと、つり革にもたれてまた笑ってる。