第10章 ラズベリーscene1
しばらくそうやって寝顔を見ていたら、翔ちゃんが目を覚ました。
「あれ?智くん、いつ帰ったの?」
ちょっと出ちゃったよだれを拭きながら翔ちゃんが言う。
「ん?ちょっと前だよ?」
「もう、起こしてよ」
そうやって笑う翔ちゃんを見てると、胸がきゅっとする。
でも、そんなこと翔ちゃんには言えない。
「お腹減ってない?」
翔ちゃんが毛布を畳みながら聞いてくれる。
「あ、うん。飲んでばっかでロクに食べてないんだ」
「じゃあ今日いただき物あるから、食べようか」
「うん、ありがとう」
なんで翔ちゃんには、俺が腹を空かしていることがわかるんだろう。
いつもそれが不思議で。
「はい、智くん」
翔ちゃんが出してきてくれたのは、りんごのコンポート。
「たぶんこれ、好きだと思うよ?」
「え、マジで?」
一口食べてみる。
「めっちゃウマイ!」
「でしょ~?俺も食べたんだけど、絶対あなた好きだと思って」
そういってふわふわ笑う翔ちゃんは、とてもきれいで。
いつまでもこの笑顔を眺めていたいなって思った。