第8章 ワインレッドscene2
そこに、なにも答えはないはずなのに、俺の口は止まらなかった。
「じゃあ、俺にもやらせろよ」
「え?」
「あの時と同じこと、俺にもやらせろよ」
「翔くん…?」
「そしたら、考えてもいい」
「え?」
「お前のこと、許してやってもいい」
そんなこと、ひとつも思ってないのに、勝手に口から言葉が出た。
「ほんとに…?」
泣いている潤の瞳に力が宿る。
「……わかった」
潤の口から出た言葉に、俺は震えた。
「翔くんが、許してくれるなら。いいよ…」
黒い塊が、腹までよじ登ってきた。
「じゃあ、シャワー浴びてこいよ」
そういって、俺は背を向けた。
「わかった…」
潤はそういってバスルームへ消えた。
心臓の音がうるさい。
一体、俺、何してんだ?
潤を抱いて、どうするつもりだ?
こんなことしたって、何の解決にもならない。
事態を悪化させるだけだ。
なのに、俺は潤がバスルームへ行くのを止められなかった。
爪が食い込むほど、自分の腕を握った。
止められない自分の暴走が恐ろしかった。
でもこの暴走を止める気がない自分は、もっと恐ろしかった。