第7章 ベルフラワーscene1
「凄かったねぇ…あのドーム」
車に戻っても、まだ俺は観測ドームの話をしていた。
大野さんはそれを黙ってニコニコして聞いてくれている。
「なんか、ああいうのロマン感じるね」
「うん」
「なんかあのドームが宇宙船になって、空に飛んでいきそうだよね」
「うん」
「あっ、ごめん。俺ばっかり喋って」
「いいのに」
「だって、大野さんの思い出めぐりなのに」
「いいんだよ。俺はあれを潤に見せたかったんだから」
「え?俺に?」
「潤なら、喜んでくれると思って」
そう言って、また優しく微笑んだ。
俺はとても嬉しくなって。
止まらなくなって。
大野さんへキスをした。
「駐車場のおじさんに見えるよ?潤?」
キスをした後大野さんの胸へ飛び込んだ俺に、大野さんが優しく言った。
車を出すと、大野さんのリクエストで三鷹駅へ車を走らせる。
「あ、よくここでチャリンコ駐めて、買い食いしてた」
大野さんが嬉しそうに、俺に教えてくれる。
夕暮れの三鷹の街は、とっても温かい色をしていて。
ここで大野さんが生まれて育ったのかと思うと、とても貴重なものに思えた。
三鷹駅は大野さんがみるだけでいいっていうから、とりあえずロータリーをぐるっと回って。
「俺が小さいころ、こんな綺麗じゃなかったんだよ?」
「どんなだったの?」
「んーなんか、もっと小汚かった」
その言い方がおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「笑うなって、もう…」
そう言ってる大野さんも笑ってて。
「あ、そうだ」
大野さんが急になにか思い出したようで、再び大野さんナビでそこへ向かう。
暫く走ると、広い線路の敷地がでてきた。
「わ…三鷹駅ってこんな電車いるの?」
「そうだよ。結構すげーんだぞ?三鷹」
幾つもの線路が集まってきて、そこはでっかいプラレールの世界。
「あそこに陸橋あるから止めて」
車通りの少ない道路だったから、路駐させてもらって。
俺達はその陸橋に登った。
とても年季のはいった陸橋で、手すりはちょっとスカスカしてて。
ルーフもないから、三鷹駅に続く線路の広大な敷地をいっぺんに見渡せる。
「なんかおもちゃみたい」
「ん」
電車がくると、ちょっと揺れて。
その振動を感じながら、大野さんとずっと電車を見てた。