第7章 ベルフラワーscene1
甲州街道を横切ると、まだ暫くまっすぐいく。
左に折れて、住宅街を走って、今度は右に折れる。
大野さんが身を乗り出してきた。
「あ、そこ」
指を指す方をみると、そこには看板が出てた。
『国立天文台』
「えっ、こんなとこに天文台あるの?」
「そうだよ。俺、小さい頃によくきたんだ」
「そうなんだぁ…」
とても星を鑑賞するようには見えないけど…
どんな思い出があるんだろう。
緩やかな坂道を登って、正門を過ぎて裏門から入って車を止める。
もう時間は4時前だったから、閑散としていた。
「平日だから、人いねぇな」
そういうと、歩き出した。
小さい山の中腹を少し均したような土地に、ドーム状の建物がいくつかある。
右手に建物が密集しているのに、大野さんはずっとまっすぐ歩いて行く。
「大野さん?こっちじゃないの?」
「うん。まだまっすぐ」
そういうと、俺の方に手を差し伸べてきた。
どきっとして、周りを見渡す俺を無視して、俺の手を取る。
「今日は、帽子も被ってるし、お前の服も地味だから、大丈夫だよ」
そう言って、歩き出す。
あ、だからか。
今朝、俺にヘンなこと言ってきたの。
俺が目立たないように、地味な服装にしてくれたんだ。
一緒に歩けるように。
繋いだ手が、熱い。
暫く歩くと、左手にある小径に入る。
砂利道をいくと、そこには古い観測ドームが現れた。
「うわっ、なんか凄い」
「そうだろ。これな、大正時代の観測ドームなんだよ」
鉄筋コンクリートでできた観測ドームは、長い年月の風雨にさらされ黒ずんでいる。
でもなんか、すごく威厳があって。
とっても小さいドームなのにものすごい存在感で。
ドームに続く階段を登って行ったら、宇宙に行けそうな気がした。
「なんか…いいね」
「うん」
暫く俺は、見惚れてしまった。
ふと大野さんを見ると、微笑みを浮かべて俺を見ていた。
その顔は、もっと見ててもいいよ?って言ってて。
俺は遠慮なくドームを見てた。
「太陽、見てたんだって」
「え?」
「ここは、太陽を観測するドームだったんだって」
「大正時代に、もう太陽観測してたの!?」
「らしいよ」
そういうと、また微笑んで俺をみた。