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カラフルⅠ【気象系BL小説】

第7章 ベルフラワーscene1


園長先生に別れを告げると、俺達は車に乗り込んだ。

「もう、行きたいところない?」

「うん。ない」

そう言うと、大野さんは満足気に微笑んだ。

今日は俺の知らない大野智をちょっと見た気がする。

なんだか俺も嬉しくなって微笑む。

「じゃあ、車出すよ?」

「うん」

流れる車窓を、大野さんはじっと見ている。

きっと懐かしい思い出を反芻してるんだろう。

俺はそんな大野さんを邪魔したくなくて、ずっと黙ってた。

でもそれは、苦しい沈黙じゃなくて。


とても幸せな沈黙だった。


ナビを操作して、自宅へポイントする。

ここからだと一時間くらいか。

夕飯どうしようかな。

なんか家にあるもので、作れるかな。

それともどこか入ろうか。


色々考えてるときに、横を見ると大野さんがこちらを見ていた。

目があってもじっと見ていた。

なんだか恥ずかしい。

また俺は目を逸らして、前をみる。

そのまま、また、車内は沈黙に包まれた。


不意に、大野さんの手がハンドルを握る俺の左手に重なった。

「今日はありがとな。潤」

「え、うん。いいよ。このくらい」

なんだか返事がぎこちなくなる。

だって、大野さんがとても真剣な顔をしてるから。

その顔をじっとみていたかったけど、運転しているからみれなかった。

大野さんの綺麗な右手は、ずっと俺の左手に重ねられていた。



自宅に着くと、とりあえず冷蔵庫の確認。

ん、なんとかいけるか。

「大野さーん。パスタしかないけどいい?」

「なんでもいいよー」

「はーい」

大葉と明太子があったから、即席たらこスパ。

のりは板海苔しかないから、ちょっと炙ってもみのりにしよう。

こんなとき、IHにしなくてよかったと思える。

さっと作って食卓に出す。

「え?もう出来たの?」

「うん。時間遅いから。手をかけませんでした」

「凄いね。潤ってなんでもできるんだね」

「パスタだけはね。大抵のことは大野さんのほうができるじゃん」

「いや、俺、料理できないから、尊敬するよ」

パスタを口に沢山入れながら、そんなことをさらっと言う。

お世辞でもおべっかでもなくて、そんなことを言う。


そんなあなたのほうが凄いよ。
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