第7章 ベルフラワーscene1
あまりの快感に、俺は壁に背を預ける。
なんとか立っている俺を見上げて、大野さんは薄く笑った。
そのまま立ち上がると、俺の顔の横に右肘をつき、深いキスをしてきた。
左手は俺の腰を抱き、手のひらでなぞって脇腹を辿る。
今イッたばかりなのに、身体は敏感に反応して揺れる
唇を離すと、俺の瞳を覗きこむように見てくる。
「ごめんね?あんまり潤の身体が綺麗だから、触りたくなった」
「ひど…い。もう…」
快感が抜け切らない頭では、文句もうまく言えない。
「好きだよ、潤」
耳元でそう囁かれて、俺は膝の力が抜けて座り込んでしまう。
「服、早く着ろよ」
そう言って、大野さんはカーテンから出て行った。
もう、いじわる…
俺の予定もなにも聞かないで、結局、大野さんは俺の車で帰ることになって。
「もう、それならそうと言ってよ。事前に」
車を運転しながら、俺はやっと文句を言う。
「だって、潤は俺のためなら予定空けてくれるだろ?」
「えっ?…まぁ…」
「空けてくれないの?」
「…空けるよ…」
そういうと、大野さんはふふっと笑ってこういった。
「俺もだよ」
この人には勝てない。
いつもマイペースに俺をかき乱して、でも俺のこともふんわりと優先してくれて。
愛されてるって実感できる。
「あ、潤。あのさ、ちょっと俺いきたいとこあるんだ」
「え?どこ?遠く?だったら無理だよ?明日早いし」
「ううん。全然。近所だよ」
大野さんが行きたいといったところは…
「何?ここ」
「んー?寺」
撮影所と同じ調布市内にある、寺。
もう遅いから、境内には誰もいない。
柵がしまって入れないところもある。
その暗い道を進んでいくと、少し明るい場所に出る。
「あ、もしかして…」
「わかった?」
大野さんと大きな樹の下に立つ。
「時々、無性に見たくなるんだよね」
大野さんは木を見上げて満足そうに微笑んでる。
そこには鬼太郎の家。
そう、ここは深大寺の鬼太郎茶屋だった。
俺は一回しか来たことがなかったから、すっかり忘れてた。
「これさぁ、ホントリアルにつくってあんだよ」
子供のような目で見上げてる。
「何時間でもみてられんなー」
俺はつきあってらんないから、周りをキョロキョロみてたんだけど、見事に店はどこも閉まってた。