第7章 ベルフラワーscene1
撮影が始まって、楽屋は入れ替わり立ち替わりいろんな人が出入りした。
スタジオ近くに前室を取ってもらってるので、そっちに移動する。
こっちの建物はかなり古くて、正直おんぼろ。
でも、遠い昔には数々のスターが使ったんだって。
何度も使わせてもらってるけど、そんなところ、使わせて貰えるのって、なんだかむず痒い。
その建物の裏には食堂があって、昔は大部屋俳優から、大俳優まで、一緒にここで食事をしたそうだ。
でも、凄いおんぼろ。
ちょっとだけ覗いていたら、後ろから俺の肩に何かが乗っかった。
「?」
振り返ると、大野さんが俺の肩に頭を乗っけていた。
「大野さん」
「潤、なにしてんの?」
「なにって。…見学?」
「ふふふ…なんの見学だよ」
そう言うと、俺の腰に手を回してきた。
「だめだって。こんなとこで」
「じゃあ…」
大野さんは周りをキョロキョロ見渡すと、俺の手をとって歩き出した。
「ちょっと、ドコいくの!?」
ちょっと早足で大野さんは俺の手を引いていく。
スタジオの裏手にある、時代劇のセットを横目に右に進むと、小さなスタジオがあって。
そこは今日誰も使っていなくて。
その建物の隙間に引っ張り込まれた。
急に壁に押し付けられ、大野さんの唇が迫ってきた。
「大野さんっ…」
唇は塞がれて、後は何も言えなくなった。
大野さんの唇が、俺の唇に触れた瞬間、もう言葉は出せなくなる。
頭の芯が痺れたようになって、なにも考えられなくなるから。
唇に飽きたらず、大野さんの手が俺の下の方に伸びてきて。
俺を服の上から擦り始めて。
そうなるとクラクラして、身体には力が入らなくなって。
でも…
もう我慢できないってとこで、大野さんはいつもやめちゃうんだ。
「さ、潤。撮影いこ?」
なんでもない笑顔で、手を差し伸べてくる。
「もーっいじわる…」
上目遣いに睨む俺の頭を撫でて、大野さんは歩く。
こういうとき、その背中は笑ってるんだ。