第5章 退紅(あらそめ)scene1
「だから、俺…」
智くんを抱き起こし、そっと横たえる。
サイドテーブルに置いてある、小さなビニール袋を智くんに見せる。
いくら考えても、いい方法がわからなくて。
俺にはこんなことしかできない。
贖罪になるか、わからない。
「これね…智くんが飲んだ薬。催淫剤。これ、今から俺が飲むから」
そういうと、智くんは大きく目を見開いて起き上がり、手を伸ばして袋を奪い取ろうとした。
「ダメッ!翔くんがそんなことしちゃ、だめだっ…!」
「俺っ!」
そういうと、智くんの動きを制した。
「俺、これ飲んで智くんを抱くよ」
「え…?」
「身体、辛いよね?ごめん。でも、今の俺にはこれしかできない」
「なんで…?」
「智くんの身体、智くんがいいって言っても抱いて抱いて、綺麗にしてあげる。もう、アイツのこと思い出さないように」
「え…?」
「俺が全部、汚いものもらうから」
「翔くん…」
「だから、もう、汚いって思わないで。俺には…俺にはさ…」
そのまま智くんにキスをする。
「こんなに綺麗なものはないから」
そういうと、ぎゅっと抱きしめた。
もしこれが受け入れられなかったらどうしよう。
どうやったら智くんに、俺が世界で一番あなたを愛してるってわかって貰えるだろう。
あなたしか、俺を愛する資格がないってわかって貰えるだろう。
「俺達の事、守ってくれて…。ありがとう。智くん」
そういうと、そのまま泣き顔になった智くんは、俺の胸をドンっと叩き、泣きだした。
子供のように大きな声で、声を上げて泣いた。
延々と涙は止まらなく、俺はずっと智くんを抱きしめた。
智くんが泣き止むまで。
涙も枯れ果て、智くんが泣き止むと、ぽつりと言った。
「翔くん…俺、翔くんのこと、好きでいていい…?」