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カラフルⅠ【気象系BL小説】

第5章 退紅(あらそめ)scene1


それから丸一日、智くんは目を覚まさない。

幸い、5人での仕事はなかったので、スケジュールを調整してなんとか乗り切った。

事務所の人間には酒を飲ませ過ぎたと報告して、こっぴどく怒られて、俺は謹慎になった。

とはいうものの、智くんを動かすことはできず、俺はずっと付き添っていられたんだけど。


女性幹部の一人が、俺の部屋にきて智くんを見舞っていった。

「かわいそうに…。後一日、目を覚まさなかったら、入院だわねぇ…」

痛々しいものを見るように、言った。

「アイツ…大野にまで手を出してたなんて…」

ギリッと爪を噛む音が聞こえた。

「…櫻井が気にすることないのよ?」

そういうと、子供の頃からしてくれたように、頭をポンポンと叩いていった。

「後はよろしくね。櫻井」

立ち去ろうとするスーツの背中に、俺は訊いた。



「ねぇ…アイツ、どうなったの?」



これが知りたくて、ごく一部の幹部にだけ、俺は本当の情報をオープンにした。

もちろんメンバーは知らない。


「知らないわよ」

吐き捨てるようにいうと、クルッと振り返り、俺の目を覗きこんだ。

「…そっか……じゃあ、櫻井にだけ特別に教えてあげる」

そういうと、人差し指を口に当てた。

「東京湾で泳いでるわ」

そういうと、部屋を出て行った。




俺の心は、晴れなかった。

自分自身の手で復讐したかった。

怒りの矛先がなくなってしまった。


自分の手で殺してやりたい。

智くんをあんな目に遭わせたヤツを。

怒りが身体を渦巻いて、どこにも消えない。

苦しくて苦しくて、吐いてしまいそうだった。




深夜、じっと眠る智くんの顔を見ていると、突然目を覚ました。

俺を見るなり、泣き出す。

また過呼吸になりそうになり、俺は智くんの身体を抱きしめ、ずっと背中を擦った。

「大丈夫…大丈夫だから…」

暫くすると落ちついて、そのまま脱力して俺に身を任す。

俺はこの一日、ずっと考えていたことを話す。

「智くん…?聞こえる?」

微かに頷く。

「俺ね、本当に智くんに申し訳ないことした。許してもらえると、思わない」

智くんは首を横に振り、否定する。

「最低だよ。俺のやったこと」

俺がそういうと、智くんは俺の腕を掴んでぎゅっと握った。

「だから、俺…」

俺はぎゅっと目を瞑った。
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