第5章 退紅(あらそめ)scene1
「うん…うん…」
「本当に?」
「好きでいて…?俺のこと…愛して?」
そういうと、智くんは深く目をつむって俺の腕にしがみついた。
痛いほどの力だった。
「抱いて、いい…?」
智くんが頷くと、催淫剤を飲もうとした。
でもそれは、智くんに止められた。
「そんなもの、いらない」
ポロッと涙を一粒こぼすと、微笑んで俺に言った。
「そんなものなくても、わかる」
そうして俺らは、一つになった。
それは激しいものではなく。
ひとつひとつ、俺らを繋いでいく糸を編んでいくような作業で。
快感とか、悦楽とかそんなこと関係なくて。
ただ、俺と智くんはひとつになった。
次の日、朝の光のなか。
俺の腕の中で眠るあの人を見ていた。
幸せな気持ちと、悲しい気持ちと、切ない気持ちがごちゃまぜになってどうしようもなかった。
そっと抱き寄せると、髪にキスした。
どうしたら、もっと愛してるって好きだって伝えられる?
教えてよ、智くん。
抱きしめていると、智くんが起きた。
少しはにかんだ笑顔を見せた。
「おはよ、翔くん…」
「おはよう、智くん…」
そういうと、唇にキスをした。
【END】