第5章 退紅(あらそめ)scene1
「全部…わかってたの…?」
そう、俺は…
自白剤を飲んだ智くんが本当のことを言ったら…
もしも智くんが俺のことを好きじゃなくって、ただの淫乱で俺を弄んだだけだったら…
ただ、それを取り繕うために、俺の家に来たのだったら…
智くんを殺して、一緒に死のうと思ってた。
「ずっと…翔くんのこと見てるから、わかる…。何考えているのか…」
そういうと、顔を少し上げて目を閉じた。
「キスがしたいんだな、とか。今、俺に触りたいと思ってるんだな、とか」
ふぅと息を吐く。
「タバコが吸いたいんだな、とか。今日はカレーが食べたいんだな、とか」
暫く沈黙が続く。
「…死ぬほど俺を憎んでるんだな、とか」
そう言うと、震えだした。
「早く…早く、殺せよぉ!」
智くんの絶叫が部屋に響く。
「智くんっ!!」
両手を掴むが、強い力で振りほどかれる。
「翔くん…」
震える両手で俺の手を取り、自分の首に当てた。
「ほら、力を入れたら、翔くんのものになるよ?」
そういう智くんの顔は、涙が流れ、頬が紅潮し、目は黒々として。
そして、微笑んだ。
いつもの艶めかしい表情で。
とても美しかった。
「できないよ…俺…」
そういうと、智くんの両手はパタンと落ちた。
「そっか。俺、殺す価値もないか」
そのままドサリとベッドに崩れ落ちた。
智くんは、気を失っていた。