第5章 退紅(あらそめ)scene1
どれくらいそうしていたか、いつの間にか、智くんの手は俺の頭に置かれたままになった。
「俺は、汚いから、翔くんには…ふさわしくないって、ずっと思ってた」
俺は必死に首を横に振る。
「でも、翔くんのこと、ずっと好きだった。だから、我慢できなかった。だからキスだけでいいって…」
顔を見上げると、涙が一筋流れていった。
「でも。翔くんも、俺のこと好きって思ってくれて、急に怖くなった。こんなに汚れているのに、翔くんに触れさせる俺が、もっと汚く思えた」
そういうと、一気に泣き顔になった。
「俺は、翔くんに触れる資格、ないっ…!」
「違う!そんなことない!」
「俺は、汚いから、翔くんが壊れていってもどうすることもできなかったっ…!傷ついてるのわかってて、見ないふりしたっ!怖かったっ…!」
「智く…」
智くんは起き上がると、手で顔を覆った。
「翔くんをこんな風にしたのは、俺のせいで…だから…だから。翔くんが望むなら、ここに閉じ込めて…?」
「そんなこと…できないよ…」
「…じゃあ、俺のこと、殺して…?」