第5章 退紅(あらそめ)scene1
「許す…?なにかあなたは罪を犯したの?」
少し、震えながら頷く。
「大丈夫だよ?」
そういうと、虚ろなままの目を上げた。
「だって、これからはあなたは俺だけのものだもの」
「え…?」
「もう俺を傷つける必要ないよ?だって、これからはあなたの世界は俺だけだもの」
「翔く……」
そういうと、泣きだした。
泣いても許してあげない。
ここから出してあげない。
あなたは、俺だけのあなたになるんだ。
さあ、最後の仕上げだ。
俺は、白い粉の入った水を智くんに飲ませた。
この家に智くんが足を踏み入れたことで、俺の中で確信が生まれた。
この人は俺のこと、好きだと。
この計画の前半がここまで上手く行くとは思わなかった。
それもすべて、智くんが俺を好きだと思ってるからで。
もし途中で手応えがなかったら、諦めようと思っていた。
でもこの人は、今、ここにいる。
俺を好きじゃないと、ありえない結果。
だから素直に言わせてあげる。
そして俺だけのあなたにしてあげる。
でもそうじゃなかったら…
水を飲んだ智くんは、虚ろな目のまま俯いていた。
どれくらい時間が経ったろう。
俺は、智くんを抱え上げて、寝室へ行く。
ベッドに横たえると、またロープを取り出して腕を縛る。
智くんはもう抵抗しない。
されるがまま、虚ろな目で俺をみている。
もう頃合いかと、質問を投げかけてみる。
「なんで、俺にキスしたの…?」
「んっ…き、もちいいから…」
「…ホテルで、なんであんなこといったの…?」
「そ、れは…」
苦しそうな表情を浮かべて、喉を押さえる。
「それは、俺が、汚いから」
「え?」
「俺が汚いから、翔くん、にはふさわしく、ない、と思った、から…」
ゼエゼエと肩で息をしながら、答える。
「何で汚いの?」
「そ、れは…うっ…」
ゴホっと大きく吐き出してから、息を吸う。
「い、きできなっ…、あっ…ゴホッゴホッ…」
突然、過呼吸を起こし涙を流し出す。
「慌てて息を吸わないで!落ち着いて!ゆっくりと息を吸って!」
「んっ…はぁっ…はぁっ…」
「ゆっくり、ゆっくり…」
俺は背中をさすって、それが止まるのを待った。
その間、智くんの言葉に混乱していた。