第5章 退紅(あらそめ)scene1
次の計画は、少し残っていた良心が邪魔して、なかなか前に進めなかった。
でも、ここでやめるわけにはいかなかった。
レギュラーの収録日、俺はスタジオのセットの裏で昼寝をしていた。
普段はこんなこと絶対にしないのだが、この日はいろんなスタッフに頼み込んで、そこを空けてもらった。
ちょっとメンバーから離れて一人になりたいから、と言うとみんな快く応えてくれた。
こっそりと誰も通らない場所に、簡単な寝床を作ってくれた。
マネージャーには、大野と相葉にだけ居場所を伝えておくように言っておいた。
案の定、暫くすると雅紀が現れた。
「翔ちゃん、どうしたの?」
心配げに覗きこむ顔に、良心がチクリと痛んだ。
「んー?どうもしない。ちょっと一人になりたかっただけ」
「あ、じゃあ俺、楽屋戻ってるよ」
「いいんだ。雅紀なら。そばに居て?」
寝転がって目を閉じながら、そう言った。
雅紀が俺の髪を撫でる。
「翔ちゃん…?」
「んー?」
「どうしたの?ほんと。最近、ずっと俺と出かけてくれるし。なんかあったの?」
「別に。雅紀は嫌なの?」
「嫌じゃないけど…なんか、翔ちゃんおかしいよ?」
雅紀が俺を思いやってくれているのは、痛いほどわかっていた。
こいつは友情から、俺につきあってくれているだけで、好きとか嫌いとかそんなレベルで居るわけじゃない。
でも。
俺はこいつを巻き込まないと、計画が進められない。
心の中で謝ると、俺は行動に移った。
俺の髪を撫でている雅紀の手を引き寄せる。
倒れこんできた雅紀の唇を塞いだ。
雅紀は抵抗したがやめない。
視界の端に、人が立っているのが見えた。
成功した。
智くんだった。