第5章 退紅(あらそめ)scene1
次の日から、俺の計画は始まった。
酒も断って、万全にした。
以前の俺に戻ったと、みんなほっとしているようだった。
背筋を伸ばして、新聞を読み、コーヒーを啜る。
そんな姿を、意識して楽屋で取った。
よく笑うようにもした。
俺はあなたが居なくても平気だとアピールした。
日に日にそれが楽にできてくるようになると、今度は次の段階へ。
「おはよー翔ちゃん」
ロケバスで新聞を読んでいると、雅紀が隣に乗り込んできた。
今日はレギュラーの特別企画で5人で遠出するロケだった。
座るととたんにあくびをし始めたので、俺は雅紀の肩を引き寄せた。
「眠いなら、寝ろよ?」
そういうと、雅紀は少しびっくりしたけど、そのままもたれ掛かってきた。
「ありがと。翔ちゃん、優しいね」
そのまま雅紀は眠りに入った。
しばらくして、智くんが乗り込んできた。
俺達を見て、少し目を見はった。
目が合うと、その目の奥に暗い色が流れている。
俺は勝った気分になると、目を逸し、車窓を眺める。
そのまま智くんは、一番後ろの席へ行った。
ロケ中、雅紀が俺に纏わりついているのを、智くんはずっと見ているようだった。
俺は彼に一瞥もしなかったから、正確にはみていたかはわからない。
けど、確信した。
彼は戸惑っている。
次の計画へ、俺は思いを馳せた。
暫くの間、楽屋では俺と雅紀はずっと一緒に居た。
「ねえ、翔ちゃん。この後なんか用事ある?」
「ん?まあな」
「えー。靴買うのつきあってよ」
「…いいよ。雅紀のためなら時間空けるよ?」
少し歯の浮くようなセリフも言ってみせた。
「なあにぃ?最近、翔ちゃん変だよ?」
ケラケラ笑う雅紀の笑顔は救いだった。
「別に…?俺がそうしたいだけだよ?」
そういうと、雅紀の前髪に触れる。
「やっ…やっぱ、ちょっと変だよ!翔ちゃん!」
顔を真赤にして、雅紀は俯いてしまった。
それをあの人は、じっと見ている。
俺も、雅紀越しにずっとあの人をみていた。
直接目が合うことはなかったけど。