第5章 退紅(あらそめ)scene1
そのまま、二人でシャンパンを飲みながら、くだらない話をした。
相葉くんが楽屋でコケたとか、松潤がうたた寝してよだれをこぼしていたとか。
マネージャーが荷物を持ちきれなくて、ふらふらしているのに、ニノが意地悪して更に上に荷物を載せたとか。
そんなことを話しながら、二人でクスクス笑って、キスをして。
そんな甘い時間が、俺には夢のようで。
またほっぺを抓りたかったが我慢した。
何度目かのキスをしたとき、俺は言った。
「智くん、好き」
突然、口をついて出てきてしまった。
智くんは目を見開いていた。
俺自身も、なぜ口に出てしまったのかわからず驚いた。
みるみるその表情が曇ると、智くんが俺の膝から降りていった。
「俺は…そういうんじゃないから」
それから数日は、何をしていたのか覚えていない。
ただ、あの冷たい響きだけが俺の中に残っていた。
事務的に仕事をこなし、家に帰ると酒浸りの生活を送っていた。
こんなんじゃダメだとわかっていても、酒に溺れるしかなかった。
あの時間は一体なんだったんだろう。
あんなに幸せな時間を過ごしていたのに、一気に地面にたたきつけられたような衝撃だった。
その衝撃は今も去っていない。
「翔ちゃん?大丈夫?」
気が付くと、楽屋にいてニノがおしぼりをもって俺の横に立っていた。
「ん?ああ。大丈夫だよ?」
「顔色、悪いなぁ…」
「そう?あ、昨日徹夜したからかな」
ニノが俺に近づいてきて、くんと匂いを嗅ぐ。
「飲んでたんでしょ?」
「あ、わかる?」
「ちょっとね、まだ匂いするよ?」
「ごめん」
おしぼりを受け取ると、ごしごしと顔を拭いた。
「最近、お酒飲み過ぎてない?」
ニノが声を小さくして聞いてきた。
「別に?」
とぼけてみたけど、それ以上なにも言えなかった。
「程々にね。身体、壊さないようにしてよね?」
「わかってるよ」
笑ってみたものの、ニノの目は俺の嘘を見透かしていて。
「なんか、あったの?」
「別に…」
そう答えるのが精一杯だった。
メンバーに心配かけるようじゃ、ダメだ。
わかっているんだけど。
心がついていかない。
俺の心と頭と身体はバラバラなままだった。