第5章 退紅(あらそめ)scene1
バスルームへ行くと、熱いシャワーを浴びた。
もうそうでもしていないと、今すぐに智くんを引き裂きそうだった。
俺の中心は高ぶって、半分勃ちあがっていた。
それを無視して、全身洗う。
でも俺の内側は、これから来る甘い時間の予感に震えていた。
これから智くんを抱けると思うだけで、達してしまいそうだった。
だから、それを頭から全部追い出した。
無駄な努力だったけど。
バスローブをはおり、リビングに戻ると、智くんは食事をしていた。
「あ、もう平気?」
なにげなく声を掛ける。
髪を乾かすのを忘れてしまった。
バスタオルでゴシゴシ擦って誤魔化した。
「美味しいよ、ホラ」
智くんは、指に生ハムを絡ませて俺に差し出してきた。
しなやかな指に、生肉を思わせる生ハムが絡みついて、なんとも淫靡な光景だった。
思わず口を寄せて、食べる。
食べて、そのまま智くんの指を舐める。
「あっ…」
感じたのか、一瞬指を引きかけたけど、そのままの姿勢でじっと俺の口元を見ている。
指に残った脂を残らず舐めとると、目で次を催促する。
次に智くんは、フルーツの皿からアメリカンチェリーを取り出すと、口に咥えた。
そのまま俺のほうへ顔を向けると、目を閉じた。
俺はそのまま、舌で果実を受け取りにいく。
軽く舌で口角に触れるけど、果実は落ちてこないので、唇に触れる。
首を傾けて、唇を塞ぐとコロンと口の中に果実が落ちてきた。
顔を離して、それを噛み砕く。
種を出そうとすると、智くんが口づけてきて、それを持っていった。
思いがけない行動に、果実の汁が、口角からこぼれ出すと、智くんの舌がすかさずそれを舐めとった。
俺も同じことを智くんにする。
暫くの間、そうやって智くんと俺は口移しで食べあった。
合間合間に、淫らな顔をして俺の瞳を覗きこむ。
「美味しい?」
と何度も聞く。
その度に、夢心地になってしまった俺は、何度も頷く。
すっかりルームサービスを食べ終えると、智くんはシャンパンを開けた。
「飲んでもいいでしょ?」
そう言いながら、グラスに注ぐ。
酔ってしまいたくて、シャンパンを頼んだ。
でも足りないかもしれない。
智くんからでる不思議な香りが、俺を現実に引き戻してしまうから。