第29章 ラズベリーscene4
部屋を眺めていたら、翔ちゃんの匂いがした。
タバコの匂いと、翔ちゃんの匂い。
すうっと吸い込むと、なんだか幸せな気分になった。
うん、がんばろう。
力がみなぎってきた。
俺は翔ちゃんを幸せにするためなら、俺が殴られたって蹴られたって構わないと思った。
説得することはできないかもしれない。
でも、翔ちゃんが笑顔でいられるようにしたい。
きっとお父さんも、翔ちゃんが泣き暮らすのなんて望んでないはずだから。
そこに糸口はあるはずだから。
ドアが開いて翔ちゃんが顔を出した。
「智くん。やっぱり帰ろ?」
「ん?」
「父さん、出かけちゃったって」
「そっか…」
なんとなく、逃げたなと思った。
それからお母さんに挨拶して、俺たちは家を後にした。
「ごめんね。智くん…」
涙ぐむから、頬を撫でた。
「もう謝ったらだめだよ?」
「でも…」
「今度謝ったら、今夜寝かさない」
「えっ…」
真っ赤になった。
とてもかわいい。
「わかった…謝らない…」
ちょっと残念。