第29章 ラズベリーscene4
「ストレートなんだよ…母さんは…」
翔ちゃんがそういうと、お母さんは微笑んだ。
「翔が成長してるんだなって思って嬉しいのよ」
そういうと立ちあがった。
「今、連れてくるから」
「…うん」
「覚悟だけはしておいてね」
8月の終わりだというのに、蒸し暑かった。
でも翔ちゃんちの応接室は、エアコンで冷え切ってて。
手の先が冷たかった。
「智くん。俺が話すから、聞いてて?」
「いや、俺が話すよ」
「俺の父さんだから…」
そういうときゅっと口を結んだ。
「…わかった…」
言いたいことはたくさんあったけど、どう言葉にしていいかわからなかった。
でも、翔ちゃんを幸せにしたいって気持ちは、お父さんには負けない。
誰よりも俺がそう思ってる。
それだけは伝えようと思った。
ドアが開いた。
俺は立ちあがった。
翔ちゃんも立ちあがった。
お父さんが入ってきた。
お母さんも後ろに続いて入ってきた。
「やあ、いらっしゃい。大野くん」
あの日のことなんてなかったように、お父さんは微笑みかけてきた。
相当手強い。
そう感じた。