第29章 ラズベリーscene4
「別れろって…言われた…」
翔ちゃんは俺の手のひらを広げた。
傷を舐めた。
「ごめん…だからこんなに…」
「違うよ…俺は、自分が情けなくて…」
「え?」
「翔が泣いてるのに、俺、理由に気付かなかった。お父さんに反対されてたからだね?」
「智くん…」
「なんで言ってくれないの?俺たち、夫婦だよね?」
今度は翔ちゃんが目をそらした。
「一緒に、乗り越えていこうよ、翔」
「智くん…」
俺は翔ちゃんを抱き寄せた。
不思議と心が落ち着いてきた。
穏やかに凪いでいる、海の上にいるようだった。
「俺と翔ちゃんが力を合わせれば、できないことないよ。頑張ろ?翔」
「うん…嬉しい…智くん…」
ぎゅっと翔ちゃんが抱きついてきた。
失えるわけない。
こんな愛おしい人を。
だから俺は戦う。
未来なんてなくても。
そっと翔ちゃんにキスをした。
久しぶりに血の気の戻った唇は赤くて。
俺のこと、誘ってて。
触れた瞬間に俺は、理性を失った。
気がついたら、リビングの床で翔ちゃんは失神してた。
それでも俺はまだ足りなくて。