第29章 ラズベリーscene4
いつの間にか、翔ちゃんが傍に立っていた。
「智くん…」
「あ…翔ちゃん」
翔ちゃんは血が出ている俺の拳を、手のひらで包み込んだ。
「探したよ…どうしたの?こんなところで…」
翔ちゃんは汗だくになっていた。
「あ…ごめんね…」
「もう…2時間も帰ってこないから、事故にあったかと思った…」
顔が少し青ざめていた。
「えっ…もうそんなに経った?」
「そうだよ…もう…心配させないでよ…」
「ごめん…ごめんね…翔…」
ぎゅっと抱きしめた。
少し震えていた。
部屋に戻ると、夕飯を買ってないことに気づいた。
「ごめん…夕飯買ってくるから」
「いいよ…なんか取ろう?」
「でも、お腹へってるでしょ?」
歩きにくかったから、ポケットからタバコを出した。
青いパッケージを見たら、翔ちゃんがそれを奪い取った。
「これ…」
「え?」
「父さんが来たの?」
「え…」
「智くん、父さんに会ったの!?」
俺は答えられなかった。
目をそらすと、翔ちゃんはわかったみたいだった。
「スーパーの近くで…偶然会ったんだ…」
「なんて、言われた?」
翔ちゃんの声が固い。