第29章 ラズベリーscene4
こうなることはわかってた。
でもこんな形で、この時がくるとは思っていなかった。
怒鳴られたほうがマシだった。
あんな冷静に、諭すように俺の前に事実を突きつけてくるとは思わなかった。
それほど、翔ちゃんのお父さんは真剣なんだ。
真剣に翔ちゃんの幸せを願っている。
痛いほどわかった。
俺達に未来は残せない。
そのとおりだ。
知らずに手を握りしめていた。
痛いくらい。
爪が食い込んだ。
…やっぱり翔ちゃんのお父さんだ。
俺の一番痛いところ、突いてくる。
俺が一番考えたくなかったところ。
涙が伝ってきた。
俺は…どうすればいい。
ここのところ、ずっと翔ちゃんが塞ぎこんでいたのは、このことだったのか…
自分の鈍さをまた、ぶん殴りたくなった。
せめて翔ちゃんと同じくらい、明晰な頭脳が俺にあったら…
もっと上手く立ち回れるのに。
翔ちゃんにあんな顔させずに済んだかもしれないのに。
あんなに悲しんでいる奥さんがいるのに、こんなところでショックを受けている場合じゃないのに。
傷めつけられたショックで、動けずに居る。
なんて俺は情けない男なんだろう。
握りしめた手のひらから血が落ちた。