第29章 ラズベリーscene4
そこからすぐ近くにある、純喫茶に入った。
「大野君はタバコ吸うんだっけ?」
「あ、はい…」
「じゃあ、これ珍しいから吸ってごらん」
「え?」
スーツのポケットから、みたことのないパッケージのタバコを出した。
「海外のタバコなんだけど、私は吸わないから差し上げるよ」
「あ、どうもありがとうございます」
背中が汗でびしょびしょだった。
わざわざ翔ちゃんのお父さんが俺に会いに来たってことは…
話が伝わったんだ。
俺と、翔ちゃんのことが。
お父さんが、お店の人にマッチを貰った。
「どうぞ、大野君」
「あ、すいません…」
青いパッケージのタバコを開ける。
一本取り出すと、マッチに火をつけて深く吸い込む。
味なんてちっともわからない。
葉っぱの匂いが濃い。
紫煙が俺と、翔ちゃんのお父さんの間に割って入る。
お父さんが目を細めて俺を見ている。
「テレビでは見ていたけど、すっかり大人になったね」
「そう…ですか…?」
「昔はもっと細かった」
「はは…そうですね…ガリガリでしたからね…」
暫く沈黙が流れた。