第29章 ラズベリーscene4
「智くん…これ…」
リビングで新聞を読んでいると、赤いリボンの掛かった小箱を差し出された。
「ん?どうしたの?」
「この前マグカップ割ったから…」
「あ、別に良かったのに…翔ちゃんのお家にあるので」
「ううん。俺の気が済まないから…」
そう言ってる姿が、なんだか小さく見えて。
俺はイスに座りながら抱き寄せた。
「翔ちゃん…俺にそんな気を使わないで…」
「ううん…そうじゃないんだ…」
でも明らかにカップは高級品で…
俺でもわかる。
エルメス…
「…ありがと。大事に使うね?」
そう言ったら、ホッとしたような顔をした。
早速開けて中を見る。
とっても上品なデザインで、白地にカップの口のほうに、鎖みたいなデザインがしてある。
「わ…すごいかっこいい」
「ほんと?」
「うん…ありがとう」
笑いかけたら、翔ちゃんも笑ってくれた。
俺がシンプルなの好きなこと知ってて、いつも色々考えて贈り物をしてくれる。
俺はこの愛おしい人にくちづけをしたくなった。
でも笑顔が消えていて。
「どうしたの…?」
「え?」
「なにかあるのなら、言って?」
「…ううん…なんでもない…」
そう言うと、リビングを出て行った。