第4章 6月
―黒尾鉄朗とご褒美―
結局リエーフと犬岡は俺たちが引退すると早とちりして泣いてたようで、春高まで残ることを知ると手のひらを返したようにいつもの馬鹿騒ぎに興じていた。
でもそれに救われた。
俺、湿っぽいの苦手だし。
最後まで賑やかなまま俺たちのインターハイとその打ち上げが終わった。
東京都ベスト8。去年からしたら大躍進だが、そんなもので満足していられない。
昨日今日はオフクロから帰省許可が出ていたので、泣きつかれて眠そうな鈴を支えて家に帰った。
風呂から上がると俺より先に風呂を済ませた鈴は珍しくリビングのソファで寝ていた。
つけっ放しのTVからは最近流行りらしいドラマのエンドロールが流れている。見てる途中で寝たんだろな。
「じゃお母さんとお父さん寝るから。鈴ちゃん部屋まで運んであげてね」
風呂から出た俺に気づいたオフクロが声をかける。
「わかったけど、何ニヤニヤしてんだよ」
「してないわよー?」
「いや、してンだろ」
このやり取りが不毛な事くらい息子の俺が一番知っている。
「あ、あと、お母さん今日はぐっすり寝たい気分だから明日のお弁当は無しね!昼はなんか買って食べなさい」
だからなんでさっきからニヤニヤしてんだよ気持ち悪りぃ。
「…ああ、わかった」
「おやすみなさいは?」
「はいはい、オヤスミナサイ」
「よろしい」
そんな会話のあとパタンと両親の寝室の扉が閉じて、途端に静かになった。
俺はリモコンを手に取りTVを消すと、起こさないようにそっとジャージ姿の鈴を抱き上げ2階へ向った。
…コイツ相変わらず軽いな。