第4章 6月
―音駒バレー部と反省会―
「鈴、そんなに泣くなよなァ」
「…っ、だっで、みんな…あんな、練習じだのにいっ」
涙をぽろぽろ零す鈴を子供をあやすように慰める黒尾。
「ずびばぜん、最後のゼッド、俺ばっか狙われで」
「リエーフ、お前は暑苦しいんだよ!どっかいけ!」
そんな黒尾にすがりつくリエーフ。
「黒尾ざーん、俺もスパイク止められて悔しいっス!もっどうまぐなりだいっス!」
「あああ、もう犬岡もウゼえ!ってか芝山までなんで泣いてんだよ!」
「うっ、も、もらい泣きッス」
犬岡、芝山までもが黒尾を取り囲んでわんわん泣く。
1年達に囲まれる黒尾を横目に、海と夜久はテーブルに並べられた料理に手を伸ばす。
インターハイを終えたばかりの音駒バレー部は、猫又監督の奢りで打ち上げを行っていた。
「クロの奴、相変わらず後輩に慕われているな」
「てかこういうのフツーは俺ら3年が泣くんもんじゃないの?」
夜久はそう言って箸で掴んだ鳥の唐揚げを口に運ぼうとした瞬間。
「やぁくざーん!」
「ぶごッ!?」
後ろから巨体に追突された。
「レシーブ練めんどいとか思ってスンマセンしたぁ!俺ぇぇ、もっどぢゃんとやるんで、これからも゛ぉ教えて下ざいいい」
165センチの夜久にメソメソと擦り寄る194センチのリエーフ。
他の部員に緊張が走る。
…これは絶対に笑ってはいけない。
夜久は戸惑いがちにリエーフの肩をバシバシと叩いて「あ、ああ、期待してるぞ」と声をかける。
泣きじゃくる大きな後輩を励ます、小さな先輩。
そのちぐはぐなやり取りに、我慢出来ずに誰かが吹き出した。
一瞬にして夜久の顔から笑顔が消えた。
「………おい、今笑った奴誰だ」
空気が凍る。
当然名乗りを上げる者はいない、と思ったその時。
「……デーデーン 山本アウト!」
「おい、ちょ福永!や、夜久さん違うんス、マジああああああああ、痛いっ痛い!福永っテメエええ!」
誰が笑ったのかは定かでは無いが、某笑ってはいけないTV番組の真似をして福永が山本に全責任を押し付けた。
その様子を見てみんなが笑う。