第4章 6月
「エースの俺が来たからには、この試合すぐにひっくり返してやりますよ」
コートに入った瞬間飛び出す大胆不敵な発言に、すかさず鉄朗のチョップが飛ぶ。
「試合出して貰えたからって調子乗んなヘタクソ」
「守備もロクにできない奴はエースとは呼ばないんですぅー」
それはコートの中に渦巻いていた見えない焦りや不安が、スーっと取り払われていくような感じだった。
「それじゃ…取り返すか」
鉄朗の一言で皆の目がギラリと輝き出す。
(リエーフが入って空気が変わった…?)
「…ホント、頼もしい奴だよ」
ローテーションでベンチに戻っていた夜久さんが呟いた。
審判の笛の合図を受け、鉄朗のサーブから試合が再開される。
(いいコース!…でも返される)
194センチのブロックを恐れてか、相手のトスはリエーフの反対へ上がる。
「孤爪サボるなッ!」
コーチが叫ぶ。
スパイクはブロックに飛んだ研磨の手をすり抜け、待ってましたとばかりに海さんのレシーブ。
頭上に返ったボールを研磨は丁寧にトスを上げる。
山なりの放物線を描く、リエーフへのチャンスボール。
長い腕が鞭の様に唸りを上げる。
ドォン。
必死に伸ばされた敵ブロックを嘲笑うかのように、ボールはその上を掠り地面を揺らす。
そのスパイクに会場は驚きと賞賛で大いに沸いた。