第4章 6月
―音駒バレー部とインターハイ―
6月16日 日曜日
インターハイ東京予選、準々決勝。
相手は去年の優勝校だった。
第1セットを落とした後の第2セット。
点差はつかず離れず両チーム15点を超えた。だが音駒には後が無い。
「…リエーフ、アップしとけ」
猫又監督が、落ち着いた声でそう伝えた。
「ういッス」
赤いユニフォーム、音駒の11番。灰羽リエーフは短く返事をし立ち上がった。
今まで戦ったチームも強かったけど、今日の相手はその比ではなかった。
素早く隙のないブロックでこちらのリズムを崩し。
背の高いセッターが仕掛ける打点の高い速攻。
(ああ、またドシャット…)
何よりもブロッカーの平均身長が高い。
そのせいか今日はみんなのスパイク決定率がすこぶる悪い。
ピッ、と審判の笛が鳴り、相手のサーブで試合が再開される。
鋭いサーブだったが、猛虎さんのレシーブで完全に威力をいなされボールはキレイに研磨の頭上に返る。
そのまま揺らぎのないフォームから繰り出される研磨のツーアタックで再びサーブ権はこちらに移った。
一進一退の攻防が続き、ついに相手が20点台に乗る。
カウントは18対20。あと5点取られたら鉄朗たちのインターハイは終わってしまうのだ。
手を握る力が強くなる。
そこでリエーフがアップを終え、監督に呼ばれる。
「お前はまだヘタクソだ。本来なら到底試合に出せるレベルじゃない」
「…うっス」
身も蓋もない言葉だが、リエーフは素直に頷く。
「だが、お前には誰にも負けない武器がある」
「うっス!」
「リエーフ、お前のスパイクで度肝を抜いてやれ」
なんとか音駒が一点を返しラリーが途切れると、コーチは審判に選手交代を要求した。
公式戦、初舞台。
追い込まれた状況にも関わらず、コートに向うその後ろ姿は堂々としていた。
彼が背負う獅子の名の如く。