第6章 7月下旬
―黒尾鈴と増える悩み―
合宿2日目の朝。私と仁花ちゃんは干されたビブスをハンガーから外し、色ごとに畳んでいた。
少しシワの残るそのビブスは過呼吸で倒れた後、目が覚めた時には全部干されていた。
他に人が居た様子も無かったし、干したのはきっと烏野のメガネの人なんだと思う。
「こっちは終わったよ…って、どうしてそんな難しい顔してるの?」
「……な、なんでも、無い」
仁花ちゃんに指摘され、ハッと思い出した様に作業のスピードを早める。
「全然なんでも無さそうじゃないけど……あの、私で良かったら話聞くよ?」
その優しい言葉に少しの間悩んで、それから私は仁花ちゃんに昨日ここで起こったことを事細かに話した。
洗濯機が止まるのを待ってる間に烏野のメガネの人が来た事、その人のスニーカーに洗剤をこぼして怒らせてしまった事。
怒られて過呼吸になってしまった事、目が覚めたらビブスが干してあって彼がいなくなっていた事。
お礼を言わなきゃいけない事、でも怖くて近付きたくない事。
全部話した。
「昨日の洗濯に行かなかった私のせいで……もし月島くんが訴状起こしたら…慰謝料…高額…鈴ちゃん…死……?」
ぶつぶつと独り言を言ったかと思うと青い顔で「私に任せて!」といって走り去ってしまった。
だんだんと仁花ちゃんの思考がわかるようになってきたけど、これに対してはツッコミを入れた方がいいのだろうかと、新しい悩みが生まれた。