第6章 7月下旬
「…ッ、ちょっと」
速すぎる呼吸のテンポ。
まるで溺れてるみたいに酸素を求め苦しそうに藻掻き、ぎゅうと自分自身をその細い腕で抱きしめる彼女。
たぶんコレは過呼吸。ストレスが原因で一時的に上手く息ができなくなるっていうアレだ。
クソ……こんなつもりじゃなかった。
罪悪感がじわりと、心を蝕む。
何やってんだ、僕は……
たかが部活、たかがバレーで、煽られて八つ当たり?
なんだよ、まるでガキみたいじゃん。
地面にへたり込んだ音駒マネージャーの背中をさする。薄い布越しに伝わる、高めの体温と引っ掛かるブラジャーの感触にドキッとする。こんな状況なのに一瞬でも不純なコトを考えてしまった自分に腹が立つ。
「……ゆっくり息して」
ぐらりと細い身体が揺れて洗剤のこぼれた地面に倒れそうになるから、抱き寄せて防ぐ。
そうすると女はイヤイヤと首を横に振って、弱々しい腕の力で必死になって僕の手から逃げようとする。
どうしたらいいんだよ。
「何もしないから落ち着いてよ」
ビクビクと震えるように小刻みに息をする。
閉じた睫毛は涙で濡れて、顔は血の気を失って青白い。
放って置いたらこのまま死んでしまうんじゃないかとすら思う、か弱い生き物。
途端に焦燥感に駆られた。
「死ぬなよ、……っ」
そこで僕はこの女の名前すら知らない事を思い出した。