第6章 7月下旬
「なあ芝山……恋ってなんだろな」
体躯に似合わない女々しい質問に対して脊椎反射的に女子か、とツッコんでしまいたくなるのを僕はグッと堪える。
1学期の授業を終えた音駒高校は、終業式を翌日に控えた今日、全校を挙げて球技大会を執り行っていた。
「猛虎さん、ナイスキーっス!」
「…犬岡くん、バスケはナイスシューじゃない?」
「あ、そうかも……そうだよなぁ…」
熱気が充満する体育館の二階。僕の隣で手すりに寄り掛かってバスケの試合を見下ろす180cm超えの大男は、冗談などでは無く真剣に悩んでいる様子で。先輩の試合も上の空だった。
「さっきの話だけと……そういうのは僕に聞くより、灰羽くんの方が詳しいんじゃ無いかな」
女子と喋るだけで緊張して萎縮してしまう様な僕に聞くこと自体間違っている。
「できねーよ……だって灰羽も鈴のこと好きじゃん」
黙った二人を体育館の喧騒が包み込む。笛の音、歓声、ボールの音。
"灰羽も"、か…。
犬岡くんの初恋は傍から見ると、困難を極めた上に望み薄だった。
部活で同じポジションを奪い合う二人が恋のライバルで、思いを寄せるマネージャーは女子高生とは思えない程、恋愛事に無関心&無頓着。
その上とてつもなく重い過去を抱えていて、最大の壁は彼女の義理の兄。たぶん黒尾さんも本気で鈴さんのこと……
整理してみるとカオス過ぎて少し引く。
「芝山はなんかねえの?そういう…恋バナ?みたいなの。中学の時とか、さ」
「中学、ね」
中学の事を思い出すと胸に引っかかるものがある。レシーブの当たり所が悪かった時みたいにジンジンと後を引く、鈍い痛み。
「あんまり参考にならないと思うけど……」
今まで誰かに言うなんて考えたこともなかったけど、今日はなんだか話してもいいかなって思えた。
時は全てを癒してくれる、という英語のことわざがふと頭に浮かぶ。
Time cures all things、だったっけ。