第5章 7月
黒尾鈴と鎧
「久しぶり、だね…3人で帰るの」
最寄り駅から家の近くまで続く川沿いの道。
私がポツリと呟くと、鉄朗がチカチカと電球の切れかかった街灯を見上げて「確かにそうだな」と静かに言った。
チラリと研磨を見ると、ぱっちり目があってコクンと頷く。
リエーフ達と別れた後、3人で帰りたいと私から誘った。
私は今日、鉄朗と研磨に言わなくちゃいけない事がある。
「……あのね、私」
「あ!やっべぇッ、数学のプリント机ん中入れっぱだ」
意を決して口を開いた瞬間、同時に発せられた鉄朗の声に掻き消される。鉄朗は頭を抱えながら提出期限がとか、またやっくんに頼まなきゃじゃんとか、ぶつくさ言っていた。私は完全にタイミングというやつを見失っていた。
そんな私を見て、呆れたように研磨が言う。
「ちょっとクロ…鈴がなんか言い掛けてたんだけど」
「…あっ、私は…別に」
言わなくちゃいけないって言ったけど、正確に言うとそれは違うのだ。自分で出した答えを聞いて欲しい、そして背中を押して欲しいという、ただの私の甘えであって……
「ス、スマン鈴…。今度はちゃんと聞いてるから何でも言ってみろ?」
「…俺も、聞きたい」
そんな風に改めて真剣に構えられると、困る。すごく。
言葉に詰まる私。
理由から?結論から?きっかけから?
頭の中がこんがらかって、何から話せばいいのかわからなくなる。
「言ってみてよ、大事なことなんでしょ?」
真っ直ぐ私を見つめる研磨は、何でもお見通しなのかもしれない。
煩雑になる頭の中を整理しようと、私はゆっくり深呼吸をした。