第5章 7月
―黒尾鉄朗と昔の話―
音駒バレー部御用達のいつものファミレスで、ボックス席に座るのはリエーフ、犬岡、芝山、向かい側に夜久と黒尾。
「3人はわかるとして、なんで夜久まで…」
グラスの氷をストローでかき混ぜながら、黒尾鉄朗は言った。
「なんか文句あんのかよ。どうせ俺と海にも言ってないことあるんだろ?」
「ぐッ!」
夜久の言い分は正しくて、俺は何も言い返せない。
ちなみに研磨はというと、ファミレスに入るなり鈴の手を引いて、別のテーブル席に座ってしまった。鈴に話が聞こえないようにという配慮だろうが、仲良し学生カップルに見えるので内心穏やかではいられない。
「黒尾さん早く教えて下さい、鈴の事」
しびれを切らしたリエーフに急かされて、俺は視線を目の前のテーブルに戻す。
部活中、研磨から求められたのは事後承諾だった。
『今日の部活終わり、リエーフたちに鈴のこと全部話してね』
俺の答えなんて聞く余地なく、一方的に。
正直、話したくなんてなかった。
鈴の過去を話すという事は、不甲斐ない過去の自分と向き合うという事でもあるから。
気が進まないがここまでお膳立てされたら、もう話すしかないだろう。
「一つだけ言わせてくれ……この話を聞いた後も今まで通り鈴と接して欲しい」
重い口を開いて、俺は頭の中を整理するように手繰り寄せた過去の記憶を紡ぎ始める。